一 諦めましたよ どう諦めた 諦められぬと諦めた
あきらめましたよ どうあきらめた あきらめられぬと あきらめた
二 あの方恋しや この方愛し 恋と愛とはちがうもの
あのかたこいしや このかたいとし こいとあいとわ ちがうもの
三 あの人の どこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す
あのひとの どこがいいかと たづねるひとに どこがわるいと といかえす
四 異見聞く時ゃ頭を下げな 下げりゃ異見が上を越す
いけんきくときゃ つむりをさげな さげりゃいけんが うえをこす
〔上を越す=頭の上を素通り〕
五 一寸も はなれまいぞと思うた仲は 主も五分ならわしも五分
いっすんも はなれまいぞと おもうたなかわ ぬしもごぶなら わしもごぶ
〔「ちょっと(ほんの少しの意)」を漢字で書くと一寸 / 五分+五分=一寸〕
六 嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理がよい
いやなおかたの しんせつよりも すいたおかたの むりがよい
七 色じゃないぞえ ただ何となく 逢ってみたいは惚れたのか
いろじゃないぞえ ただなんとなく あってみたいわ ほれたのか
八 歌は何う読む 心のいとを 声と言葉で 綾に織る
うたはどうよむ こころのいとを こえとことばで あやにおる
〔いと=1.糸 2.意図 / 綾=1.言葉の文(あや)2.織物の綾(あや)〕
九 団扇づかいもお客によりて あおり出すのと招くのと
うちわづかいも おきゃくによりて あおりだすのと まねくのと
十 梅もきらいよ桜もいやよ ももとももとの間が良い
うめもきらいよ さくらもいやよ ももとももとの あいがよい
〔もも=1.桃 2.腿〕
十一 逢うた夢みて笑うてさめる あたり見まわし涙ぐむ
おうたゆめみて わろうてさめる あたりみまわし なみだぐむ
十二 岡惚れ三年 本惚れ三月 思い遂げたは三分間
おかぼれさんねん ほんぼれみつき おもいとげたは さんぷんかん
〔岡惚れ=密かな片思い / 本惚れ=両想い〕
十三 お酒飲む人しんから可愛い 飲んでくだまきゃなお可愛い
おさけのむひと しんからかわい のんでくだまきゃ なおかわい
十四 おまえの心と氷室の雪は いつか世に出てとけるだろ
おまえのこころと ひむろのゆきわ いつかよにでて とけるだろ
十五 表向きでは切れたと言えど 蔭でつながる蓮の糸
おもてむきでわ きれたといえど かげでつながる はすのいと
〔蓮は千切れても糸(極細の繊維)を引くことから、
表面上は関係が切れたように見えても実際には繋がっていること、
未練があることを言う〕
十六 思う程 思うまいかと離れて居れば 愚痴な様だが腹が立つ
おもうほど おもうまいかと はなれていれば ぐちなようだが はらがたつ
〔やっぱり想ってしまって腹が立つ〕
十七 面白いときゃお前とふたり 苦労するときゃわしゃひとり
おもしろいときゃ おまえとふたり くろうするときゃ わしゃひとり
十八 思い出すよじゃ惚れよがうすい 思い出さずに忘れずに
おもいだすよじゃ ほれよがうすい おもいださずに わすれずに
十九 及ばぬ恋よと捨ててはみたが 岩に立つ矢もある習い
およばぬこいよと すててはみたが いわにたつやも あるならい
〔中国の史記にある故事より〕
二十 顔見りゃ苦労を忘れるような 人がありゃこそ苦労する
かおみりゃくろうを わすれるような ひとがありゃこそ くろうする
二十一 可愛いお方に謎かけられて 解かざなるまい 繻子の帯
かわいいおかたに なぞかけられて とかざなるまい しゅすのおび
〔謎=1.なぞなぞ 2.物事をそれとなくわからせるように言うこと /
この場合繻子の帯=腰帯〕
二十二 君は野に咲くあざみの花よ 見ればやさしや寄れば刺す
きみわのにさく あざみのはなよ みればやさしや よればさす
二十三 口に謡うて 声にて聴かせ 心動かす 歌が歌
くちにうとうて こえにてきかせ こころうごかす うたがうた
二十四 戀という字を分析すれば いとしいとしと言う心
こいというじを ぶんせきすれば いとしいとしと いうこころ
〔戀=恋 漢字を分解すると「糸し糸しと言う心」 / 糸し=愛し〕
二十五 恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす
ここいにこがれて なくせみよりも なかぬほたるが みをこがす
二十六 小唄都々逸なんでもできて お約束だけ出来ぬ人
こうたどどいつ なんでもできて おやくそくだけ できぬひと
二十七 この雪に よく来たものと 互いに積もる 思いの深さを 差してみる
このゆきに よくきたものと たがいにつもる おもいのふかさを さしてみる
〔差してみる=物差しで測ってみる〕
二十八 これほど惚れたる素振りをするに あんな悟りの悪い人
これほどほれたる そぶりをするに あんなさとりの わるいひと
二十九 酒は飲みとげ浮気をしとげ 儘に長生きしとげたい
さけわのみとげ うわきをしとげ ままにながいき しとげたい
〔儘=思うまま、わがまま〕
三十 察しておくれよ花ならつぼみ 咲かぬところに味がある
さっしておくれよ はなならつぼみ さかぬところに あじがある
三十一 三千世界の鴉を殺し 主と朝寝がしてみたい
さんぜんせかいの からすをころし ぬしとあさねが してみたい
〔三千世界≒全世界 / 鴉=この場合は朝を告げる鳥〕
三十二 すねてかたよる蒲団のはずれ 惚れた方から機嫌とる
すねてかたよる ふとんのはずれ ほれたほうから きげんとる
三十三 船頭殺すに刃物はいらぬ 雨の十日も降ればよい
せんどうころすに はものわいらぬ あめのとおかも ふればよい
三十四 たったひとこと言わせておくれ あとでぶつともころすとも
たったひとこと いわせておくれ あとでぶつとも ころすとも
三十五 立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花
たてばしゃくやく すわればぼたん あるくすがたわ ゆりのはな
三十六 たんと売れても売れない日でも 同じ機嫌の風車
たんとうれても うれないひでも おなじきげんの かざぐるま
〔たんと=たくさん〕
三十七 力強ても叶わぬものは 場所の勝負と恋の闇
ちからつよても かなわぬものわ ばしょのしょうぶと こいのやみ
〔場所=相撲 必要なのは技か運か…〕
三十八 つねりゃ紫喰いつきゃ紅よ 色で固めたこのからだ
つねりゃむらさき くいつきゃべによ いろでかためた このからだ
三十九 どうせ互いの身は錆び刀 切るに切られぬくされ縁
どうせたがいの みわさびがたな きるにきられぬ くされえん
四十 泣いた拍子に覚めたが悔しい 夢と知ったら泣かぬのに
ないたひょうしに さめたがくやしい ゆめとしったら なかぬのに
四十一 泣くもじれるも ふさぐもお前 機嫌なおすも またおまえ
なくもじれるも ふさぐもおまえ きげんなおすも またおまえ
四十二 主はいまごろ醒めてか寝てか 思いだしてか忘れてか
ぬしはいまごろ さめてかねてか おもいだしてか わすれてか
四十三 寝てもさめても忘れぬ君を 焦がれ死なぬは異なものよ
ねてもさめても わすれぬきみを こがれしなぬわ いなものよ
〔これは実は都々逸ではないのですが(出典:隆達小歌百首)、
同じ26字詩ということで加えさせて下さい
四十四 寝ればつんつん 座れば無心 立てば後ろで舌を出す
ねればつんつん すわればむしん たてばうしろで したをだす
〔無心=遠慮なく物をねだること〕
四十五 花は散りぎわ 男は度胸 いのち一つはすてどころ
はなわちりぎわ おとこはどきょう いのちひとつわ すてどころ
四十六 腹が立つならどうなとさんせ 主にまかせたこのからだ
はらがたつなら どうなとさんせ ぬしにまかせた このからだ
〔どうなとさんせ=どのようにでもしなさい〕
四十七 ふてて背中をあわしてみたが 主にゃかなわぬ根くらべ
ふててせなかお あわしてみたが ぬしにゃかなわぬ こんくらべ
〔ふてる=ふてくされる、強情を張る /
根くらべ=根気のよさをくらべあうこと〕
四十八 古疵へ さわりたくない互いの無口 早く酔いたい久し振り
ふるきずえ さわりたくない たがいのむくち はやくよいたい ひさしぶり
四十九 星の数ほど男はあれど 月と見るのは主ばかり
ほしのかずほど おとこはあれど つきとみるのわ ぬしばかり
五十 惚れて惚れられなお惚れ増して これより惚れよが あるものか
ほれてほれられ なおほれまして これよりほれよがあるものか
五十一 惚れた証拠にゃお前の癖が いつか私のくせになる
ほれたしょうこにゃ おまえのくせが いつかわたしの くせになる
〔(わたしの)くせになる=1.同じ癖や習慣を自分もやるようになる
2.やみつきになる〕
五十二 文字で口説いて 気持ちで惚れて 姿に見とれて 身に溺れ
もじでくどいて きもちでほれて すがたにみとれて みにおぼれ
〔文通など文字を介した遣り取りから始まる恋のことであろうか〕
五十三 横に寝かせて枕をさせて 指で楽しむ琴の糸
よこにねかせて まくらをさせて ゆびでたのしむ ことのいと
五十四 論はないぞえ惚れたが負けよ どんな無理でも言わしゃんせ
ろんわないぞえ ほれたがまけよ どんなむりでも いわしゃんせ
五十五 わたしゃお前に火事場の纏 振られながらも熱くなる
わたしゃおまえに かじばのまとい ふられながらも あつくなる
〔纒=火消し(め組など)が火事の際に
屋根に上がって振った飾りの付いた棒状の目印〕
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